日本行動分析学会 倫理綱領
 
 


このページは1987年6月に承認された日本行動分析学会の倫理綱領のWeb版で す. 本倫理綱領に関する議論・疑義・提訴に関しては, 印刷形式の正式版 (『行動分析学研究』1987年第2巻 p. 79) を御参照下さい.

本倫理綱領の著作権は日本行動分析学会に帰属します.
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I.前文



  日本行動分析学会の会員 (以下,会員) は,人間の尊厳を深く認識し,その

基本的人権を尊重するものである.



  会員の諸活動は,人間に関する知識の蓄積と活用にあるが,それは人間の幸

福と福祉の増進に貢献することを目的とする.



  この目的のための研究活動や臨床活動においては,動物 (脊椎動物)・研究

対象者および援助を求めてきた者の,健康・福祉・安全に十分留意し,努力す

る義務をもつ. 人間においては,対象者が,研究・治療への参加・選択・中

断の自由を保有していることを認め,動物においては,その自然保護にも十分

留意する義務がある.



  会員は得られた知識・情報を伝達する自由と権利を保有しているが,それに

ともなう責任を自覚し,発言の公正と客観性に努める.他の研究者の権利,お

よび研究対象者やクライエントの人権に対して十分配慮し,社会に対する影響

についても考慮する必要がある.



  以上のような主旨にもとづき,以下に述べる諸原則に従う.



II 研究活動



1.人間



(1) [研究対象と方法の適切さ] 研究者は研究の計画と実施においては,適切

     で最もふさわしい対象と方法を選ぶこと.なお,動物でも可能な研究の

     場合には,なるべく人間を対象にしないこと.また,研究の対象となる

     人間に対して,研究内容と方法が倫理的に認められ得るものであるか否

     か,慎重に検討すること.



(2) [対象者の自由の保証] 対象者が研究への参加を辞退したり,中断したり

     する自由をもっていることを尊重すること.特に,プライバシーにかか

     わる研究の場合には,研究者はできるかぎり対象となる人間に研究の内

     容について説明し,同意を得ること.



(3) [対象者への偽りの補償] 研究者と対象者の関係は率直で正直なものであ

     ること.研究上やむをえず,研究の意図を隠したり偽ったりする必要が

     ある場合には,この理由と研究の意義や内容について,あらかじめ,倫

     理連絡委員会に諮ること.なお,終了後なるべくすみやかに対象者に説

     明すること.



(4) [対象者への危害の除去] 対象者に対して,身体的・心理的な苦痛や危険

     および継続的な被害を与えないこと.やむを得ずそのような可能性のあ

     る研究を行う場合には,できるかぎり最小限にすること.このことにつ

     いては,あらかじめ,倫理連絡委員会に諮ること.なお,実験にあたっ

     ては,前もって対象者の同意を得ておくこと.なお万一,研究対象者に

     好ましくない影響が生じた場合には,これを必ず除去すること.



(5) 上記以外の内容については,臨床活動の綱領に従うものとする.



2. 動物



(1) [動物使用の理由] 研究目的を達成するために,どうしても動物実験が必

     要であることを明言できること.特に,授業などでデモンストレーショ

     ンや初等訓練を行う際には,ビデオ映画やコンピューターシミュレーショ

     ン等の代替法の活用に努めること.



(2) [使用動物の入手] 動物の種の選定は研究目的によく合致したものである

     こと.また,入手経路をよく確認し合法的に入手されたもののみを使用

     すること.特に,野生の動物を使用する際には自然保護に留意し,外国

     からの輸入動物の場合はワシントン条約の遵守に努め,必ず輸入業者に

     相手国の輸出許可証およびわが国への輸入許可証を確認すること.研究

     結果を公表する際には,必ず入手経路と種名を明示すること.



(3) [飼育管理の適正] 実験動物の飼育管理は,その種の習性をよく考慮し,

     総理府告示「実験動物の飼養,保管等に関する基準」 (昭和55年3月27

     日: 告示第6号) およびその解説書に従って,飼育者と実験動物の両方

     の健康を守るものであること.経済性・ 飼育者の保健衛生や労働の軽減

     を重視するあまり実験動物の保健衛生や苦痛の軽減が犠牲にならないよ

     うに努力すること.



(4) [手術と拘束] 実験上やむを得ず手術や拘束を必要とする場合は,麻酔等

     で苦痛の除去に努めること.また,術後の回復期間は十分にとり,拘束

     装置には徐々に馴化させること.常に,実験動物に不必要な苦痛を与え

     ていないかを反省し,待偶改善に努力すること.



(5) [強化刺激と食餌制限の適正] 実験手続き上,正の強化刺激でも嫌悪刺激

     でもよい場合には,前者を用いること.ただし,過度の摂食・摂水制限

     にならないように体重変化に注意すること.また,可能な場合には,食

     餌制限を行わないで集団で飼育し,実験セッション時にのみ個体を移動

     させる方法の導入に努めること.



(6) [動物の再利用] 実験が終了したときには,他の実験や他の研究者による

     再利用に努めること.そのためにも,できるだけ個体ごとの飼育簿を備

     えて,使用歴を明確にすること.ただし,この多重利用のために同じ個

     体に生命にかかわる大手術を繰り返しはならない.また,殺処分が必要

     なときは,(3)の総理府基準にもとづいて安楽殺を実施し適切に死体を処

     理すること.



(7) [野生動物の保護] 野生の動物を研究の対象とする場合には,自然保護に

     留意し,そのまわりの生態系に悪影響をおよぼさないように注意するこ

     と.また,地域住民の福祉やプライバシーを損なわないように気をつけ

     ること.



III 臨床活動



(1) [クライエントの人権の保証] セラピストは,クライエントの治療を受け

     る権利,および,危害からの自由の権利を常に保証するように努力しな

     ければならない.



(2) [セラピストの立場の悪用] 診断・治療・助言は職業的治療関係の中での

     み行う.セラピストは権威的立場にあるため,クライエントがその圧力

     に屈し,本人の意志に反して性的パートナーや,研究の被験者などにさ

     せられやすい.したがって,クライエントがセラピストの私的利益に利

     用されることのないよう特別な注意を払うこと.



(3) [クライエントの治療参加の任意性] クライエントが治療参加を決定する

     際には,セラピストは,参加への圧力を排除し,治療方法とセラピスト

     とに関するクライエントの選択の自由と,クライエントが途中でやめる

     自由を保証する.



(4) [クライエントの同意] クライエントが治療や研究への参加に同意を与え

     る場合は,正しい情報 (介入の性質と目標・辞退する自由・予想される

     利益と損失・複数の介入選択肢) が与えられ,強制のない事態での意志

     決定が保証され,かつ関連する情報を理解し判断する能力があることが

     証明されることが望ましい.



(5) [クライエント保護における費用便益比] 臨床研究・サービスに参加する

     クライエントにもたらされる利益は,それによって生じる可能性のある

     危険を必ず上まわるように十分考慮されるようにすること.



(6) [クライエントと代理者の関係] 治療依頼者がクライエントと別人の場合 

     (親・教師・裁判所・公共機関等),それらの人々の利益よりもクライエ

     ント自身にとっての利益のほうが,優先されるよう配慮すること.



(7) [治療目標の選択] 治療の目標を決定する場合は,目標が明確に文章化さ

     れ,その決定過程にクライエントが参加し,そしてその決定された目標

     にクライエントが任意性をもって同意することが望ましい.さらにその

     介入がもたらすクライエント自身に対する短期的・長期的利益や,それ

     と周囲の人々が得られる利益との違い等が,適切に考慮されるようにす

     ること.



(8) [治療方法の選択] クライエントに対して,不快度・治療期間・費用・証

     明されている効果・制約度などに違いのある複数の選択肢が提示され,

     それらに関して理解できる言葉での説明がなされる (情報を与えられる) 

     ようにすること.



(9) [罰使用の原則] 嫌悪刺激の使用は原則として行わない.やむを得ず嫌悪

     刺激を使用する介入においては,クライエントに対して嫌悪度に差があ

     る複数の技法が提案され,クライエント本人かまたはやむを得ぬ場合は

     代理者が技法の決定に参加し,そしてその技法の使用に同意を与えるこ

     とが必要である.なお罰の使用にあたっては,最初は嫌悪度の最小なも

     のから適用し,その効果がデータにおいて認められないときのみ,より

     嫌悪的な技法の使用へと進むことを原則とすることが望ましい (最小制

     約介入の原則).



(10) [治療関係の秘密保護] セラピストは,原則として,治療関係において入

      手したクライエントに関する情報を外部に漏洩しないこと.クライエン

      トは診断と治療に関する情報を誰が知る可能性があるかについて,説明

      が与えられること.記録は厳重に保管され,関係者以外は接近できない

      ようにすること.



(11) [治療のアカウンタビリティ] セラピストは治療の効果を客観的に評価す

      る測定方法と記録システムを開発し,効果を監視すること.効果が上がっ

      ていない場合は他の方法を試み,それでも効果がない場合は治療関係を

      中断し,他のセラピストに照会する等の手段を講じること.



(12) [治療技術の錬磨と最高のサービス提供の原則] セラピストは常にサービ

      ス能力を向上させるための研鑽を積み,新しい技法や,価値の変化に対

      して偏見のない態度をもつこと.そしてすべての活動の中で,クライエ

      ントに対する最高のサービスの提供を最優先させること.



(13) [診断テストの実施] テストを実施する場合は,その性質・目的,およ

      び,結果をクライエントが理解できるように説明すること.



(14) [テスト情報の扱い] テスト解釈は,証拠にもとづく妥当なものになるよ

      うに注意し,またテスト情報のうち,誤解されたり濫用されたりする可

      能性のある不要な情報はファイルから除去すること.



IV  研究・著作の公表



(1) [資料の秘密保護] 得られた研究対象者やクライエントの個人的な資料に

     ついては厳重に保管し,秘密保護の責任をもつこと.また,公表する

     要のある場合には,対象者やクライエントまたは法的保護責任者の同意

     を得ること.



(2) [協同研究の発表] 数人のグループで行った研究活動や臨床活動の公表に

     おいては,共著とし,最も貢献したものを最初にあげること.研究協力

     者に対しては,脚注などで敬意を表すること.



(3) [出典の明記] 研究の公表または著作において,それに直接関連のあった

     他者の公刊または未公刊の資料については,引用して出典を明らかにす

     ること.



V 公的発言



(1) [広告・宣伝の公正] 商業的販売を目的にして,一般利用者に心理的用具・

     テスト・書籍などを開発し,販売することに関係したときは,広告や宣

     伝に偽りがなく,その影響について責任がもてるものであること.



(2) [事業等の公正] 心理学的事業・ワークショップ・セミナーを行うときは,

     専門的立場からみてその権威や内容について誇張・扇動・不誠実がない

     よう公正かつ正確に提供すること.



VI  倫理の研鑽



諸活動・公表・公的発言にかかわる倫理綱領を十分理解し,実行できるために,

会員はつとめて,倫理思想や国内外の関連法規を学ぶ機会をもつこと.



VII  倫理基準の監視



(1) [人間の場合] 研究活動や臨床活動において,倫理基準に違反しないよう

     にするため,研究者やセラピストは,その活動内容や方法について,当

     該者以外の者に対しても,その適正さについて説明でき,合意が得られ

     るものであること.できれば,その適正さの判断を委ねることができる

     倫理連絡委員会 (2つ以上の研究室 (異なる研究機関もしくは学部) で

     構成する) を構成し,本倫理基準の実施につとめること.



(2) [動物の場合] 実験動物の取扱や実験手続きの適正さの判断を当該研究

     者のみに委ねず,少なくとも2つ以上の研究室 (異なる研究機関もしく

     は学部) が合同で動物委員会を構成し, 上記原則の実施に努めること. 

     (少なくとも年2回以上,この委員会は関係研究室の飼育室や実験室を視

     察し,改善の勧告などを行うこと.委員会の委員として,動物実験を行

     わない研究者1名・獣医師1名が加わっていることが望ましい.)



VIII 違反行為への助言



会員は,他の会員が上記の倫理綱領に違反した行為をしている場合には,その

状況を正すよう努力すること.



IX  倫理委員会への提訴



(1) 会員は,他の会員が倫理綱領に違反していると認識し正すことができない

     と判断したときには,倫理委員会に提訴することができる.

     (倫理委員会規定は別途に定める.)



(2) 会員は倫理綱領に不備を認めたときには,倫理委員会に提訴することがで

     きる.



(1987年6月14日総会にて承認)


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