『行動分析学研究』掲載論文抄録 Vol. 16


刺激等価性の成立における共通ネーミングの機能
常磐短期大学 佐藤隆弘

研究の目的 本研究では、被験者による共通ネーミングが刺激等価性の成立に 与える効果を調べた。 研究計画 群間デザインによる二つの実験を行った。  場面 各被験者は実験室の実験装置の前に座り、それぞれ個別に実験を受け た。 被験者 実験1(10名)、2(6名)ともに大学生であった。 介入  (実験1)ネーミング訓練条件群の被験者には、実験者が設定した各等価クラ スの一刺激に対するネーミングを訓練した。その後に行った見本合わせ訓練で は、これらの被験者に、見本刺激と正の比較刺激に同じ名前を付けるように教 示した。さらにこれらの被験者には、見本合わせテストにおいて提示された見 本刺激の名前を発言するように要求した。一方、統制条件群の被験者にはネー ミング訓練を行わず、また、見本合わせ訓練での刺激へのネーミングを要求し なかった。さらに統制条件群の被験者には、テストにおいて、自発的なネーミ ングを妨害するための短文の音読課題を与えた。(実験2)すべての被験者に 対して見本合わせ訓練の前にネーミング訓練を行ったが、テストでは短文の音 読課題を与えて被験者のネーミングを妨害した。 行動の指標 テストでの正 答率と反応時間を指標とした。 結果 実験1のネーミング訓練条件群の被験 者のうち3名は、正答率と反応時間にノード距離効果が現れていない等価クラ スを形成した。これに対し、実験1の統制条件群と実験2の被験者は、全員がテ ストにおいて等価クラスの形成に失敗した。 結論 被験者が共通ネーミング を行うことができる場合、それによって刺激等価性の成立が促進されると結論 できる。

Key words 刺激等価性、共通ネーミング、ネーミング訓練、ノード距離効果、 見本合わせ、大学生

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点字ブロック付近への迷惑駐輪の軽減――データ付きポスター掲示の効果――
筑波大学 佐藤晋治
立命館大学 武藤 崇 
  新潟大学 松岡勝彦 
牛久市社会福祉協議会 馬場 傑       
筑波大学 若井広太郎

(1)研究の目的 点字ブロック付近に置かれた迷惑車両に対する警告だけで なく、適切な場所へ駐輪するというルールに従う行動に対する強化も焦点化し たポスターを掲示することの効果を検討した。(2)研究計画 場面間多層ベー スライン・デザインを用い、ベースライン、介入、プローブを実施した。(3) 場面 A大学図書館、講義棟付近の点字ブロック周辺。(4)対象者 主に上記 の場所を利用する学生、職員。(5)介入 不適切駐輪の定義とその防止を呼 びかける内容のポスターと、1週間ごとの不適切駐輪台数のグラフとその増減 に対するフィードバックを付したポスターを上記の地点に掲示した。(6)行 動の指標 点字ブロック付近に置かれた迷惑駐輪車両の台数。(7)結果 介 入を実施した5地点のうち4地点では、不適切駐輪台数は減少した。しかし、残 りの1地点ではむしろ増加傾向にあった。また、駐輪スペースの利用者に対す る事後調査の結果から、介入方法や結果の社会的妥当性が示された。(8)結 論 不適切駐輪台数の増減に対するフィードバックを表示したポスター掲示は 不適切駐輪台数を軽減させたが、その効果は明確なものではなかった。今後は より効果的な介入方略の検討とともに、物理的環境の整備も必要である。

Key words 点字ブロック、迷惑駐輪、ポスター、視覚障害者、行動的コミュ ニティ心理学

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交流モータとセンサで作る低価格万能給餌器
慶應義塾大学 井垣竹晴
メディア教育開発センター 望月 要       
慶應義塾大学 坂上貴之 

本稿では、低価格な万能給餌器の製作を紹介する。2つの交流モータが使用さ れ、一つははけに、もう一つはアクリル製の円形回転盤に取り付けられている。 回転盤の上方に取り付けられたはけが回転することによって、強化子が回転盤 から掃き出される。強化子が提示された後、次回の強化子提示に備え、回転盤 は一定の角度、回転する。2つのセンサが使用され、一つははけの回転を、も う一つは回転盤の回転を停止させた。本装置は他の万能給餌器よりも多くのパ ラレルI/Oボードの信号を必要とするが、構造が単純であるため製作するのが 容易である。

Key words 万能給餌器、強化子、交流モータ、センサ、装置製作

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行動経済学は行動研究にどのような貢献をなしたのか: 行動経済学特集にあたって
大阪市立大学 伊藤正人

行動経済学が行動研究に果たした貢献は、行動実験を一つの経済システムとみ なせること、強化子は、需要の価格弾力性の概念から区別できること、強化子 間の関係は、代替性や補完性の概念から記述できること、選択行動の基本原理 である対応法則は、強化子が代替可能な場合にのみ成立すること、という4つ の側面に集約できる。行動経済学が行動分析学と経済学の交流により誕生した ように、行動経済学の今後の発展は、実験経済学や進化経済学という経済学に おける新しい研究分野との交流から生まれるであろう。

Key words  行動分析学、行動経済学、経済環境、弾力性、代替性、対応法則

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行動分析学と経済学:進化的枠組みの中での共同作業をめざして
慶應義塾大学 坂上貴之

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動につ いての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの 経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の 展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験条 件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をも たらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義 に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経 済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と 進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともそ の実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に 後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理 性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的 アイデアを提供するからである。

Key words  行動経済学、実験経済学、進化経済学、ゲーム分析的アプロー チ、進化ゲーム、限定合理性、不確実性、目的論的行動主義

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行動経済学における価格と所得の研究
立命館大学 恒松 伸

 行動経済学における価格と所得研究の現状が、動物の食物消費行動の実証的 研究を通じて分析された。主要な価格研究として、(a)コスト要因と便益要 因の比率による単位価格の研究と(b)労力と時間による2つのコスト要因の比 較研究をとりあげた。等式のあてはめによる需要曲線分析の結果、単位価格に おけるコスト要因と便益要因の間の交換可能性と、行動価格における労力コス トと時間コストの間の機能的等価性が、いずれも低から中程度の価格範囲での み成立することが、価格弾力性の比較により明らかになった。これらの成果を ヒトの消費行動における通貨の使用と比較すると、上述の(a)が交換手段の、 (b)が価値尺度の機能に対応し、強化スケジュールによって操作される価格 が共通尺度として機能する範囲とその限界を示したものと考えられる。一方、 実験セッション内の全強化量の制約として操作された所得変数が動物の消費行 動に与える効果は、通貨を使用するヒトの消費行動と同様に見出されたが、そ れらの実験的操作間の機能的等価性を調べた所得研究は、現在まで行われてい ない。この研究を進めるために、所得・消費曲線の形状を特定する体系的な研 究が必要である。さらに、所得の制約の効果は、行動配分を示す事実として、 食物の効率的な取得や選好の変化を分析することによって、今後明らかにされ るであろう。

Key words  行動経済学、コスト、単位価格、所得、弾力性、需要曲線、所 得・消費曲線、動物


強化量選択の行動経済学的研究:絶対強化量・体重レベル・経済環境の効 果
大阪市立大学 伊藤正人・小林奈津子・佐伯大輔

 本研究は、並立連鎖スケジュールにもとづく同時選択手続きを用いた3つの 実験を通して、ラットにおける強化量の選択行動に及ぼす絶対強化量、体重レ ベル、経済環境の効果を、選択率と需要分析における価格弾力性を測度として 検討した。強化量条件としては、相対強化量を1:3として、絶対強化量(1個 45mgの餌ペレット数)を1個:3個から4個:12個の範囲の4条件設け、給餌が実 験セッション内に限られる封鎖経済環境と実験セッション外給餌のある開放経 済環境の下で各被験体に選択させた。また、セッション時間やセッション外給 餌量により体重レベルを実験間で操作した。実験1と3では、体重を自由摂食時 安定体重の約80%に維持し、実験2では、体重を自由摂食時安定体重の約95% に維持した。その結果、絶対強化量条件間を比べると、開放経済環境における 1個:3個条件よりも4個:12個条件の方が高いことが認められた。選択期と結 果受容期の反応に需要分析を適用すると、いずれの体重レベルにおいても、開 放経済環境において弾力性の高いことが示された。これらの結果は、経済環境 の相違が体重レベルやセッション時間ではなく、セッション外給餌の有無に依 存することを示唆している。

Key words  選択、絶対強化量、体重レベル、経済環境、需要分析、並立連 鎖スケジュール、ラット


行動経済学と変化抵抗
慶應義塾大学 井垣竹晴・坂上貴之

 本稿では、行動経済学と変化抵抗の関係が概観される。需要弾力性が変化抵 抗の観点から、変化抵抗が需要弾力性の観点から再分析され、需要曲線と変化 抵抗から得られる関数の形状が類似していることが示された。開放・封鎖経済 において変化抵抗を比較した研究では一貫した違いが見いだせなかったが、こ の研究は手続き上のいくつかの問題点のため、再検討が必要であろう。労働供 給との関係では、価格変化のもとでの反応の減少によって表現される代替効果 が変化抵抗の観点から再分析され、所得に対する余暇の代替性が高い場合、反 応の変化抵抗は弱いことが示された。これらの分析は行動経済学と変化抵抗の アプローチが一致していることを示唆するものである。

Key words  行動経済学、変化抵抗、需要弾力性、開放・封鎖経済、労働供 給


遅延報酬の価値割引と時間選好
大阪市立大学 佐伯大輔

 これまで、経済学と心理学は、遅延時間の経過に伴う報酬の価値の減衰を、 時間選好または遅延による報酬の価値割引と呼び、この現象の説明を異なる学 問的立場から異なる方法論を用いて行ってきた。経済学における初期の研究は、 公理的アプローチにより、財消費の現在と未来への合理的配分を表すことので きる指数関数モデルを提案した。しかし、最近の経済学研究は、経済学や心理 学における実証的研究の結果から、指数関数モデルでは記述できない逸脱現象 を見出し、これらを記述できる新たな割引モデルを提案している。一方、心理 学では、ヒトや動物の遅延による価値割引が、指数関数モデルよりも双曲線関 数モデルによってうまく記述できることや、収入水準やインフレーションなど の経済学的変数が割引率に関係する事実が明らかになった。今後、仮想報酬間 での選択場面を用いてきた経済学の時間選好研究には、実際の選択場面を用い た割引率の測定が求められる。一方、心理学の価値割引研究には、経済学が報 告した逸脱現象が、実際の選択場面においても生起するか否かを検討すること が求められる。2つの価値割引研究の融合により、この現象のさらなる理解を 可能にする学際的研究領域の確立が期待される。

Key words  選択行動、遅延による報酬の価値割引、時間選好、指数関数モ デル、双曲線関数モデル


ゲーム事態と選択行動研究
立教大学 神谷直樹
慶應義塾大学 坂上貴之

 選択行動研究における伝統的な実験手続き、および近年の実験手続きは、い くつかの制約を研究に与えてきた。この制約は3点に分類される。すなわち、 選択肢および選択行動の静的性質、選択行動の制御変数としての強化子や強化 スケジュールの偏重、選択行動における規則的あるいは系列的変動の軽視であ る。このような制約を克服できる可能性のある、現在までに試みられてきた研 究を検討した上で、2種類の弁別刺激(予告刺激と通告刺激)と2種類の反応 (選択反応と遂行反応)から構成される予測ゲーム課題を提案した。予測ゲー ム課題における行動を分析できる規範理論としてのゲーム理論を簡単に紹介し た後、この理論の5つのコンポーネント(プレーヤー;利得行列;手、手番と 方略;初期条件;プレー手順)と実際の実験手続きの要素とを対応させて議論 する。その結果、予測ゲーム課題は本論で挙げられた現在までの選択行動研究 における問題点に答えることができるだけでなく、広範囲の実験手続きを内包 しうる適切な方法の1つであると結論された。

Key words 選択、弁別刺激、時系列分析、予測ゲーム課題、ゲーム理論


喫煙・飲酒・薬物摂取の行動経済学
大阪市立大学 山口哲生・伊藤正人

 本稿では、単位価格、需要曲線、価格弾力性といった行動経済学の基礎的な 概念が、喫煙・飲酒・薬物摂取行動を理解する上でいかに有効であるかを述べ る。また、消費者行動に影響を及ぼす経済学的要因として価格、代替性、所得、 遅延による価値割引を取り上げ、こうした要因が喫煙・飲酒・薬物摂取行動に どのように影響するかを明らかにする。現在までに、行動経済学的概念が依存 症治療へ応用可能であることが多くの研究より示されているが、行動経済学的 な枠組みでは、薬物摂取行動以外の他行動の強化により、薬物摂取行動を減少 させることができる。こうした治療を行う際は、問題行動を強化している強化 子と代替強化子との機能的等価性、望ましい強化子に対する補完強化子の有無 を考慮する必要がある。行動経済学的研究は、また、薬物摂取に関する社会政 策にも有効な方法を提言することができる。

Key words  行動経済学、需要の価格弾力性、単位価格、代替性、喫煙、飲 酒、薬物摂取、中毒

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