『行動分析学研究』 Vol. 9 掲載論文抄録


手術前呼吸練習プログラムの開発とその効果の検討

鎌倉やよい (愛知県立看護短期大学)
坂上貴之 (慶應義塾大学)

 本研究は開胸術後の順調な回復のために必要とされる効果的な最大吸気練習 プログラムの開発のために計画された。プログラムは被験者間多層ベースライ ン法でなされ、3つのフェーズからなっていた。ベースラインのフェーズでは、 被験者は吸気練習器具であるトリフローの使用法について病棟で与えられる通 常の教示を受け、吸気線習を自己記録するように言われた。第1の介入フェー ズでは日々の吸気回数と吸気量の結果がグラフでフイードバックされ、もし前 田の記録よりも上回っていれば言語的賞賛が与えられた。第2の介入フェーズ では、第1のものに加えて、この練習の手術への役割についての新しい情報が 与えられた。吸気回数の目標値はベースラインでは20、第1介入フェーズでは 50、第2介入フェーズでは80というようにあげられた。19人中、14人が介入に よってベースラインのフェーズから第2介入フェーズへとその吸気量を増加さ せた。増加しなかった5人は、ベースライン時においてその吸気量を急激に増 加させたため、吸気行動を維持できなかった。

Keywords:呼吸練習プログラム、吸気練習器具、手術前愚者、最大吸気持続法、 吸気量、オペラント条件付け、グラフィックフイーげバック


Conversational Expansions and Initiations Form a Response Class for Adults with Intellectual Handicaps

Wendy Gunthorpe (Behavioural Sciences in Medicine: University of Newcastle)
Bernard Guerin (University of Waikato)

We studied the effect of training conversational expansions on conversational initiations in six adults with intellectual handicaps. Generalization was assessed in weekly probe sessions consisting of conversations with an unfamiliar person in a community setting. Results indicated that training for expansions was successful for all but one subject and that generalization of this skill increased for all those subjects who succeeded in training. The frequency of initiating conversations increased concurrently without any explicit training, indeed, initiations were ignored during training. In three cases inappropriate verbalizations decreased without explicit training, which might have been due to multiple contingency time constraints, but might also have resulted from an implicit extinction procedure. Based on these results and previous research it was suggested that the conversational expansions and initiations had formed a functional response class through their commonly occurring natural contingencies.

Keywords: social behavior, conversation initiations, conversation expansions, intellectual handicaps


精神遅滞児における買い物スキルの形成と般化に関する研究
---実際場面とシミュレーション場面での訓練の分析--- 依田雅美 (多摩丘陵病院)
清水直治 (東京学芸大学)
氏森英亜 (東京学芸大学)

14歳の精神遅滞児への買い物スキルの形成と般化のための指導手続きについて 検討した。地域で出会うであろう刺激のバリエーションと反応を明らかにする ために、ジェネラルケース手続きを使用した。まずはじめに、3つの商品を購 入するために、実際のスーパーマーケットで訓練した。次に、実際場面とシミュ レーション場面とを組み合わせた訓線を行なった。2つの場面を組み合わせた 訓練の後、買い物中の失敗率が減少した。買い物スキルは、4つの新奇なスー パーマーケットと、地域の1つのスーパーマーケットに般化した。こうした結 果は、実際場面とシミュレーション場面とを組み合わせた訓練が、買い物スキ ルの形成と般化に大きく貢献していることを示唆した。

Keywords:  精神遅滞児、買い物スキル、刺激のバリエーション、実際場面と シミュレーション場面、ジェネラルケース手続き、地域に根ざした教授、般化、 課題分析


心理学文献データベース用検索結果分析プログラム

望月 要 (放送教育開発センター)

 PsycLITによる心理学文献検索の結果を評価するプログラムを製作した。 PsycLITはCD−ROMで供給される心理学文献データベースで、近年大学図書館な どに普及している。この検索結果をダウンロードし、個々の文献について検索 者が自分の検索意図に合致したか否か判断しマークしたファイルをもとに、 DEAPは、デスクリプタ(検索のキーワード)の種類と出現頻度を分析する。 DEAPを使うことで、検索者は検索意図に合致した文献に付されていたデスクリ プタと、合致しなかった文献に付されていたデスクリプタの種類と頼度、重複 しているデスクリプタを知ることができ、次回の検索のために、検索方略を洗 練させるための情報として活用することができる。DEAPはjperlで書かれMS− DOS及びUnixを搭載したコンピュータ上で利用可能である。

Keyawords: データベース、文献検索、コンピュータ・ソフトウェア、インス トルメンテーション


A Framework for Analyzing and Changing Human Behavior

Bernard Guerin (University of Waikato
Visiting Research Professor, Keio University)

 Six common sources of contingencies are suggested, to provide an overall framework for analysing behavior and taking account of the many variables which control human behavior. Controlling contingencies can be produced by the physical environment, by multiple contingency interactions, by meta-contingencies, by social behavior without a verbal community, by verbal communities, and through social rituals which reinforce behaviors that maintain the verbal communities. Different interventions are briefly suggested which are appropriate for each source of contingency. An example is given of how we might analyse smoking behavior and how smoking has been controlled by interventions appropriate to the six sources of control.

Keywords: verbal communities, complex behavior, intervention strategies


企業における行動分析学の活用と普及

井上貞郎 (グローバル電子株式会社)

 日本においては、企業での行動分析学の原理と手法の活用と普及は、まだ少 ないように見受けられる。この論文は、筆者が企業において活用と普及活動を 行った事例について報告し、合わせて普及の為の提案を行ったものである。活 用事例は、(1) アラビア語教育、(2) OA化教育、(3) 新人プログラマー教育、 の3つであるが、いずれも企業内教育についての事例である。普及の方法とし ては、主としてソフト業界において、講演、セミナーを行った。普及のための 方策として、(1) 活用場面の発見、(2) 入門書の作成、(3) 人材の養成、(4) コンサルティング活動、(5) 事業化、(6) 一般学生への普及、等を提案した。

Keywords: アラビア語数育、OA化教育、プログラマー教育、応用行動分析学、 企業での普及


大学における統計ソフトウェアセミナーの設計と改善

島宗 理 (鳴門教育大学)
久東光代 (日本女子大学)

 大学における情報処理教育に行動分析的手法を導入した例として、統計ソフ トウェアの使い方を教えるセミナーを設計、実施、改善した過程を報告する。 初めに、課題分析により標的行動を定義し、これらを訓練するための手引きを 作成してセミナーを実施した。事前事後に行った評価テストからセミナーの教 育効果が確認された。次に、事後テストにおける誤反応を分析し、間違いを減 らすためのチェックリストと線習問題を追加して2回目のセミナーを行った。 評価テストの結果から、誤反応が減少したことが示され、セミナーが改善され たことが認められた。

Keywords: 高等教育、情報処理教育、統計、チェックリスト、評価テスト


子どもの選択スキルを高めるための試み I:
通園施設における "活動の選択" をとおして

山根正夫・徳永数正・和田恵子・岡村清美・
古賀えり子・松山良子・内山寛海・花田美恵子
(北九州市立第3ひまわり学園)

 本研究では、通園施設において就学前の発達障害をもつ子どもを対象に、選 択のスキルを高めていくためにどのような環境を準備したらよいかについて検 討した。まず、日課の中で選択機会の設定の可能性を検討し、いくつかの場面 で予備的に選択を実施した。さらに、当園のプログラムのひとつである「午後 の活動」を子どもが活動を選択をする機会として位置づけ、視覚的な手かがり (絵カード)を用いた選択の機会を提供し援助した。この過程の中でほとんど の子どもたちがプリファランス(選好)を表明できるようになった。本実践の 結果から、社会的行動としての選択の機能について討論した。

Keywords: 通園施設、活動の選択、プりファランス(選好)、発達障害をもつ 子ども


子どもの選択スキルを高めるための試み I:
「自由遊び場面」での選択スキルの使用

箱崎孝二・山根正夫・徳永数正・和田恵子・
岡村清美・古賀えり子・松山良子・有延利恵
(北九州市立第3ひまわり学園)

 本実践では、通園施設での自由遊び場面において、1名の軽度知的障害をも つ子どもを対象に、職員の指示がなくても自発的に活動を開始したり意思表明 ができることを試みた。活動を開始するときに、「自由遊びメニューボード」 から好みの活動を選択させた。「ボード」にある「NO!」カードを選んだとき は、「カードファイル」から「ボード」には用意されていない他の活動を選択 して遊べるようにした。プリテストでは、自由遊び場面で「何もしていない行 動」が多く観察された。訓練において「ボード」と「ファイル」を導入するこ とによって、「何もしない行動」の生起頻度は減少してきた。そして、遊具を 使った遊びが次第に増加するとともに、「ボード」や「NO!」カードを使って 職員への要求がみられるようになった。この結果は、ポストテストでも維持さ れていた。本実践から、自発的な活動の開始や意思表明の形成において、ボー ドによる活動の選択決定と、「NO!」カードによる選択肢の交換または否定の 行動を保障することが重要であることが示唆された。

Keywords: 活動の選択、知的障害、プリファランス(選好)、問題行動、選択 肢、自由遊び


自閉症児における伝言行動の指導:
精神薄弱養護学校の活動の中で

佐竹真次 (東京学芸大学附属養護学校)

 2名の自閉症児に対して他者のメッセージを伝言する行動を、精神薄弱養護 学校の日常的な生活場面で指導した。往信行動は、「〜先生、給食の用意がで きました。いらしてください」というメッセージを託された対象児が、伝言先 の先生のもとへ行ってそれを言うこととした。対象児が往信行動を自発的に表 出した場合にも模倣によって表出した場合にも、信言先の先生が社会的強化因 を提示した。往信行動が形成された後に、復信行勅を導入した。復信行動は、 新たに「お先にいただいてください、とおっしゃいました」などのメッセージ を託された対象児が、もとの場所に戻ってきてそれを言うこととした。2名と もに往信行動を獲得し、日常生活の中で対人般化、場面般化、反応般化がみら れ、長期にわたって維持された。一方、復信行動に関しては、1名で往信行動 との間に混乱が起こり、他の1名で1種類の復信文のみを表出するにとどまっ た。結果から、学校生活の中で信言行動を指導する際の利点と留意点について 論じた。

Keywords: 自閉症児、伝言行動、往信と復信、学校性活場面、般化、維持


自閉症児の音声を伴う要求言語行動の形成:
精神薄弱養護学校の日常場面での試み

長沢正樹 (岩手県立久慈養護学校)
藤原義博 (上越教育大学)

 ことばによる要求言語行動がみられない精神薄弱養護学校に在籍する2名の 自閉症児に、既得のサインによる要求言語行動からことばを用いた要求言語行 動への移行ステップとして、発声を伴った要求言語行動の形成を行った。訓練 は、既に要求言語行動が生起しているか、その生起が期待される学校の日常場 面での要求機会を利用した。また、これと並行して動作から音声(5つの母音) までの模倣訓練を個別指導で行った。その結果、訓練セッションでは、両名と もに、要求言語行動は訓練前に比べて2倍以上に増加し、単音節の発声を伴っ た要求言語行動も出現した。発声を伴った要求言語行動の生起頻度は低くかっ たが、教師の音声プロンプトに対する発声や口形模倣は増加した。この結果を ふまえ、養護学校での日常の要求機会を利用し、音声による要求言語行動へと 技能向上を図るための指導方法と、学校現場の実状に即した個別指導のあり方 について検討を加えた。

Keywords: 自閉症児、要求言語行動、精神薄弱養護学校、個別指導


言語障害教室における発達遅滞児の問題行動の低減:
教師と子どもの双方の伝達行動の改善

平澤紀子 (新潟県立高等養護学校)
藤原義博 (上越教育大学)

 本研究は、言語障害教室の個別指導場面で問題行動を起こしている発達遅滞 児1名とその担任教師に対して有効な援助を探ることを的とした。我々は、教 師の要求する課題の理解や遂行が困難な場合、子どもの逃避的な問題行動が生 起すると仮定し、教師と子どもの双方の伝達行動を改善することで問題行動が 低減し課題遂行が促進するかどうかを検討した。教師と子どもの伝達行動のア セスメントに基づいて、(1) 教師には伝達行動の改善や教材、環境、手続きの 構造化により課題要求を明確化することを要請し、(2) 対象児には問題行動の 機能に応じた明確な伝達行動を形成した。その結果、対象児の問題行動は低減 し、課題遂行は促進した。これらの結果は、発達遅滞児が課題場面で問題行動 を起こす場合、その機能に応じて、対象児の理解や表出を補うような伝達の改 善を周囲と対象児の双方に要請することの重要性を示している。

Keywords: 発達遅滞児、問題行動、課題要求、伝達行動、個別指導場面、言語 障害教室


視覚障害研究の現状と課題:
行動分析的アプローチの導入の必要性と問題

加藤元繁 (筑波大学)

 わが国の障害児教育は、これまで盲、聾、肢体不由由、知能等の障害別に取 り組まれてきた。中でも視覚障害教育はその個有の障害住を重視し、かつ他の 障害分野や研究領域との交流も少なかったために、経験的にのみ指導法を確立 する傾向が強かった。したがって、教育現場では逸話記録法による実践報告ば かりが繰り返され、研究と言えば古典的なlarge Nアプローチによる能力測定 型のものが中心となってきた。一方、米国においては、視覚以外の障害を併せ 持つ、いわゆる重複障害児(者)を対象として行動的アプローチによる報告が 積極的に導入されている。本稿ではわが国盲学校教育の成立の過程と研究領域 を概観し、視覚障害をめぐる教育・福祉ならびにリハビリテーションの発展の ために、行動分析的アプローチのこの分野への積極的な導入の必要性と、日常 生活の文脈やルール支配行動の視点からの標的行動の決定の方法あるいは問題 行動の位置づけをめぐる問題点について論じた。

Keywords: 視覚障害、応用行動分析、社会的スキル、標的行動、正の強化、ルー ル支配行動


コミュニケーション分析における『会話の原則』の意義:
INREALアプローチの視点から

畦上恭彦 (埼玉県総合リハビリテーションセンター)

 臨床において、コミュニケーション場面での子どもの行動の変化を捉えると 同時に、その行動の意図、例えば、人に視線を向けたという行動だけなく、子 どもの視線の奥の「まなざし」の意図を理解するということが重要な意味を持 つ。このような観点からINREALでは、コミュニケーション分析を行い、これを 通して、話し手・聞き手はどのように『会話の原則』に従ったかを検討する。 今回、自閉的傾向のある発達遅滞児とのプレイ場面において、INREALの『会話 の原則』に従ったコミュニケーション指導を行ったところ固執と思われていた 行動が、人との関わりの接点となり、大人と子どもとのやり取りへと変化して いった。大人が意味のあるコミュニケーションを行うために『会話の原則』を 守ることの重要性が示唆された。この『会話の原則』を守っているかどうかは、 臨床場面の録画ビデオを検討することで確認できる。

Keywords:コミュニケーション分析、lNREAL、会話の原則、待つこと、対人的 行動の変化


教育実践研究の方法と課題:運動障害を中心に

藤田和弘 (筑波大学)

 最初に、教育分野における実践研究の枠組みについて、実践記録あるいは実 践報告と対比して述べる。次に、「特殊教育学研究」の「実践研究特集号」に 掲載された論文50編を対象に、研究内容別に分類し、さらにその中から運動障 害分野の論文10編を取り上げ、研究の内容、個人内変化の検討の有無、結果の 表示方法、指導期間などについて分析する。こうした現状分析を踏まえて、教 育実践研究における方法論上の問題点を提起した上で、運動障害の中でもポジ ショニングの研究に焦点を当てて、今後の研究上の課題について、指導目標、 target behavior、変数の統制、指標の選択、個人内変化を取り上げコメントす る。

Keywords: 教育実拭研究、運動障嘗、ポジショニング、個人内変化、特殊 教育学研究


応用行動分析とサイエンティスト・プラクティショナー・モデル

中野良顯

 「実践研究の方法と課題」で論ずべき主題を考察した。実践研究の概念を分 析すると、臨床心理学の訓練の理想的範型、サイエンティスト・プラクティショ ナー・モデルに到達する。このモデルが目指すのは、消費者・評価者・研究者 の3役割を統合する生産的研究者、分析的実践家の育成である。個体分析法に よって臨床実践の実験科学化を可能にした応用行動分析は、このモデルの使命 を実現する最も正当な継承者である。それは実践の科学化を可能にするための 7指令に、社会的妥当性と効果的処遇を受ける権利という新しい次元を加え、 研究者と実践家の行動指針とした。これらの指令は、研究者はどうすれば実践 の問題に関連深い研究を展開できるか、実践家はどうすれば科学的方法論を駆 使して伝達可能な情報を生み出せるか、科学に基づく実践を受益者に好かれる 実践にするにはどうすればいいか、そして緊急に解決すべき問題を持つ人々が 問題の改善に有効な介入を受ける権利をどうすれば保障できるか等の基本的課 題への試案的回答として提出された。それらは日々の実践研究において反復検 討され、十分吸収活用され、一層発展させられなければならない。

Keywords: 実践研究、応用行動分析、サイエンティスト・プラクティショナー・ モデル、社会的妥当佳、効果的処遇を受ける権利

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