日本行動分析学会ニュースレター

J−ABAニューズ
1999年 冬号 No. 14


シリーズ:生きがい本の行動分析

第一回:プロローグ
長谷川芳典(岡山大学)

 好評のうちに最終回を迎えた伊藤正人先生の「jABAシアター」の後を受けて、この たび「生きがい本の行動分析」という連載を始めさせていただくことになった。

 この連載では毎回、「生きがい本」を1冊ずつとりあげ、行動分析的視点でその内 容を考察していくことにしたい。とりあげる書籍としては、「生きがいの創造」、「 自分が強くなる生き方」、「人生をいかに楽しむか」といった一般読者向けに書かれ た「生きがい本」のほか、「元気づけ本」、「やる気を出す本」などもこれに含める ことにしたい。

 ちなみに、大学生協の「和書検索発注サービス 書籍検索」を用いて、「生きがい 」をキーワードにあててみると188冊(「生き甲斐」では152冊)が、また「心理学」 をキーワードにあててみると2257冊がヒットする[1999年1月31日現在]。ところが 、「生きがい」と「心理学」をAND条件で結んで検索してみると、わずか7冊(「生き 甲斐」&「心理学」では5冊)だけに絞り込まれてしまう。ほんらい「生きがい」は 心理学の根本問題であるはずなのだが、心理学者が正面から取り組んだような本は意 外に少ないことが分かる。

 「元気」についても同じようなことが言える。『「ほめ言葉」の事典』の著者であ る広野穣氏は、その書のまえがきで、“「元気」も「勇気」も心理学の用語ではない 。なぜ、人間にとってこれほど大切な言葉が専門の心理学の世界では研究されないの か、わたしたちにとっては不思議だが、...”と疑問を投げかけている。

 もちろん、心理学でも、「生きがい尺度」、「やる気尺度」、「元気尺度」なんて いうものを作れば、その程度を測ったり、他の尺度との相関を調べることで個体差の 原因をある程度は把握することができるであろう。しかし、いくら個体差を説明した としても、それだけでは生きがいを作ったり、やる気や元気を増やしたりする方法は 見いだせない。

 では行動分析学ではこの問題にどう取り組んでいるのか。『行動分析学研究』の特 集号「スキナーを21世紀に活かす」(10巻1号、1996年)の中で、河合伊六氏はスキ ナー自身の生き方と彼が高齢期をエンジョイする方法として提案した内容を考察して いる。また坂上貴之氏も、河合氏へのオープンリビューの中で行動加齢学を紹介しつ つ、「死生観」や「生き甲斐論」について、“このテーマを心理学でも考えていくこ とに異論はないが、これらを高齢者をめぐる諸問題の解決の出発点とすることには、 大いに疑問がある。”とし、その理由として“現在の我々の住む社会とは異なる「死 生観」や「生き甲斐論」が創出されるかもしれない”という可能性をあげておられた 。

 個人的な考えとしては、行動分析学の伝統的な研究スタイルが「生きがい」問題を ダイレクトに扱えるかどうかについてはやや疑問がある。というのは、ほんらい行動 分析学は「死人テスト」をパスした具体的な行動を対象としているからである。それ ゆえ、特定個人の中で問題行動があったり、望ましい行動がなかなか持続しない場合 にそれを改善することは大の得意種目ということになるが、個人の行動リパートリー 総体の中で、種々の行動がどのような階層をつくり全体としてどのような生きがいを 与えているかというような問題はダイレクトには扱いにくいだろう。

 また、複数の行動やそれをとりまく環境を問題にする場合でも、ダイレクトに「生 きがい」と関連づけるのではなく、どちらかと言えば、適応や自立に有用な諸行動の 形成に目が向けられることが多いように思う。たとえば上に述べた高齢者の話題でも 、高齢者の問題行動をどう改善するかとか、自立に役立つ行動をどう形成していくか というところに関心が向けられる反面、そもそもどうすれば「生きがいづくり」につ ながるのかといった問題は、なかなか話題として取り上げられにくいところがあった 。

 では、行動分析学的な視点が全く無力かと言えば、私はむしろ、諸々の心理学の中 では、「生きがい」問題に最も有効に対処できる部分があると考える。1979年の来日 の際の講演でスキナーが指摘したように、人間の幸福が、「Happiness does not lie in the possesion of positive reinforcers; it lies in behaving because positive reinforcers have then followed. 正の強化子を手にしていることではな く、それが結果としてもたらされたがゆえに行動すること」(訳は佐藤方哉訳、行動 分析学研究、1990, 5, p.96)という視点から、この社会をとらえ直すことができる からである。

 さて、元の「生きがい本」の話題に戻るが、次々と登場してくる「生きがい本」が 、一定の人気を博しつつ、数ヶ月から数年のうちに忘れ去られていくのは何故か。常 に流行の域を出ず、究極の生きがい本とならないのは何故だろうか。私はこれは、本 というものの限界であろうと考えている。仮に究極の生きがいのようなものがあった としても、それは個々人が実際に行動しなければ獲得されない。書かれてあることと いうのはしょせん、「こうすればこうなる」というルールの提唱、あるいは「こうい うものは素晴らしい」という条件性強化、「こういうものを気にするのはやめよう」 という消去の教示にすぎない。とはいえ、そういう本を比較していけばそこに共通す る言語的強化や有用なルールのようなものが浮かび上がってくる可能性もある。とい うことで次回からの連載にご期待いただきたい。


いよいよ連載が始まった『生きがい本の行動分析』。「生きがい」というテーマに取 り組める科学はおそらく行動分析学くらいしか無いのではないでしょうか?今後の展 開が楽しみです[編]。


研究室紹介:兵庫教育大学障害児教育実践センター井上研究室

『うまい、やすい、はやい』が合いことば
奥田健次・井上雅彦(兵庫教育大学)

井上:うーむ。
奥田:センセ、どないしはったんですか?
井上:いやあ、J-ABAニューズレターの編集部から研究室紹介の原稿たのまれてしも てな。ちょっと考えておってん。
奥田:いいですね。さっそくやりましょ。
井上:ほな、奥田くん、やって。
奥田:なんでそうなるんですか。
井上:そんなん得意やって、いつもいうてるやろっ。
奥田:得意ですうっ。
井上:よし、ほなどんな風に展開するか言うてみて。
奥田:一言でいえば、井上研究室は「うまい、やすい、はやい」に集約されます。
井上:何やそれ、牛丼屋みたいやな。説明して。
奥田:「うまい」っていうのは、ケースに来るクライアントの年齢やニーズにあわせ て色んなサービスを提供するのが「うまい」っちゅうことです。2、3歳の幼児には 言語獲得プログラムや就学に必要な様々な集団適応訓練、学齢期の子どもには言語指 導や社会的技能訓練、アカデミックスキルやピアノ演奏、料理みたいな余暇活動、青 年期になると自閉症青年のバイク教室みたいなワイルドなやつもありますよね。
井上:わびとさびの物静かな(?)茶道教室もあるやないか。
奥田:そうですね。ところで「教室系」の指導って、結構センセの趣味でしょ。
井上:指導者も楽しんでやってるっちゅうことが重要や。コミュニケーションの指導 は、まずおもろいことをいっしょに楽しむっちゅう環境(弁別刺激・強化)を設定せ んとマンドもタクトもでえへんわけや。それとうちは教育大学なんやから実際に学校 教育や福祉の現場で使えるような研究をしていかんとな。
奥田:もちろんこれらの教育サービスは、すべて行動分析学に基づいてプログラムが 構成されているわけですよね。
井上:あたりまえやんか。他に、もっと発達心理学者や認知心理学者をびびらすよう なガチっとした研究も言わんと。
奥田:ほな、自閉症児・者を対象にした心的言語行動とか認知的行動なんかの分析と か。他にも私らが日頃ディスカッションして貯めている研究ネタもようけありますね 。だれか一緒に臨床やったり研究やったりしてくれる人、来てくれへんかなあ。こん な大歓迎が受けられるなんて最高でしょ。
井上:他に臨床や研究以外のウリは?
奥田:兵庫教育大学って、確か臨床心理士養成の第一種認定大学になったんやなかっ たですか。臨床心理士めざしてる人は他の大学行くよりも近道ですわ。
井上:よう言うわ、こないだも資格だけめざしてくるヤツは根性たらへん。オレは資 格なんかにたよらへんぞーっというてたやないかぁ。
奥田:じつは資格に必要な単位が足りないだけなんですぅ。
井上:「うまい」は分かった。気になるのが「やすい」や。何やそれは。
奥田:国立大学やから授業料が安い。月々3千円の寮もあるから生活費も安いでしょ 。これって結構重要ですよ。こんなに軽費なのに応用行動分析の研究がしっかりでき るとこってそんなようけありまへん。ここは関西、「やすい」はウリになりまっせ。 どないでっか。
井上:おまえ、何で金の話しになると商い言葉になるねん。
奥田:ほんで、最後の「はやい」ですわ。
井上:何が「はやい」ねん。
奥田:センセに見捨てられるのが。
井上:見捨てへんがな。
奥田:冗談っス。本当のところ言いますけど、新人が子どもの指導に入るまでが結構 「はやい」ですよね。
井上:そうせんと人がたらへんだけやがな。最初は時々失敗しながらでも段々うまく なっていくもんやろ。ちゃんとプロンプトもしとるがな。
奥田:そうですね。だから上達も「はやい」わけですね。
井上:なんか無理矢理こじつけてない? おれは井上研究室の特徴って「明るく、楽 しく、激しく」やと思うねんけど。
奥田:ホンマはボクもそう思います。ただ学生をいっぱい呼ぶためには「うまい、や すい、はやい」の方がインパクトあるでしょ。
井上:大学生勧誘の宣伝ちゃうんやから。
奥田:えっ? これって研究室の「宣伝」やなかったんですか?
井上:「紹介」やっちゅーの。

さすが関西地区代表、行動分析学界の吉本コンビ (!?)。コテコテの研究室紹介、 ありがとうございました。個人的には、やはり「激しく」というキーワードは捨てが たいと思います。「激しく笑える」とか? [編]

提言:行動分析学の基礎用語

誤解の少ない、分かりやすい用語を、統一して使いませんか?
島宗 理(鳴門教育大学)

 行動分析学の基礎用語には今一つ統一性がない。手元にあった7冊の教科書をざっ と調べたら表1のようになった。『強化』と『罰』、それから『強化』のサブカテゴ リーの『正の強化』と『負の強化』についてはだいたい共通している。ところが『強 化子』に関しては『強化子』と『強化刺激』の2通り(これらには『正の』という形 容詞がつくときとつかないときがある)、その対立概念としては『嫌悪刺激』『負の 強化子』『罰刺激』『罰子』のナント4通りの用語が存在する。複数の用語を混在し て使っている教科書もある。『アトム(atom)』を『原子』とか『最小子』とか『原 基』とか、教科書によって異なる用語を使って表現するなど物理学では考えられない ことだ(と思う)。同一の現象を弁別刺激として複数のタクトが存在するのは効率的 ではないし、不必要に学習を困難にする。専門用語が統一されていないことは初学者 にとって明らかに不親切である。

表1.行動分析学の基礎用語

 用語そのものにも問題がありそうだ。『罰』という言葉は、対立概念の『強化』に 較べると、とても日常的な言葉である。日常的な言葉を科学の基礎用語として使うの は、いわば両刃の剣であり、注意が必要だ。たとえば認知心理学では『記憶』や『理 解』という言葉が専門用語として使われている。日常的な言葉には、分かりやすく取 っ付きやすいというメリットもあるが、多義的で誤解を生みやすいというデメリット もある。

 ためしに学習心理学の概論を受講していた189人の学生に『罰』という言葉を聞い て思い浮かべる言葉を書かせてみた。すると、『罪』(64)『体罰』(54)『罰金』 (25)『苦痛』(24)『ペナルティ』(21)などの言葉が連想された(カッコの中の 数字はその言葉を想起した学生の数である)。明らかに、『罰』という言葉は文化的 、社会的にネガティブなイントラバーバルの弁別刺激になっている。  行動分析学の専門用語としての『罰』は「行動による環境の変化でその行動の将来 の頻度が減少する」という過程を記述する概念である。これは、重力に引かれてリン ゴが木から落ちるのと同じような自然現象を記述する概念であって、文化的、社会的 な“含み”は何もない。わざわざネガティブな価値判断を示唆する言葉を使う必要は ないと思う。意図的ではないにしろ、初学者にわざわざ悪い印象を与えかねない言葉 の選択である。

 『正の強化』『負の強化』という用語の使い分けは、統一されているし、一見論理 的で、わかりやすいようにも思われる。しかしながら実際には、初学者がぶつかる壁 でもある。これもよくよく分析すれば納得できる問題だ。『正の強化』と『負の強化 』は、どちらも行動の頻度を増やす随伴性なのに後者には『負の』という形容詞がつ いている。実際、『負の強化』で主役をはたす『負の強化子』は、定義上、行動に随 伴して出現すれば行動の頻度を減らす刺激だ。つまり、『負の』という言語刺激は、 ある文脈では『増やす』というイントラバーバルの弁別刺激の一部であり、他の文脈 では『減らす』というイントラバーバルの弁別刺激の一部になっているわけだ(図1 )。初学者が(専門家でも)混乱するのも無理はない。

図1『正の強化』『負の強化』の学習の困難さの一因

 我田引水になるが、『行動分析学入門』の出版で我々執筆者が目指したことの1つ は、こうした用語の問題に解決の糸口を見つけることだった。『行動分析学入門』で は『正の強化子』を『好子(こうし)』、『負の強化子』を『嫌子(けんし)』とし 、『正』『負』の対立を『好』『嫌』で置き換えた。もともと『負の強化子』は『嫌 悪刺激』と呼ばれることも多かったので、移行は難しくないだろうと考えた。『強化 』はそのままで、対立概念である『罰』を『弱化』とした。『好子と嫌子』の組み合 わせのように、『強化と弱化』の組み合わせはゴロも良いし、対立構造がはっきりす る。ちなみに『罰』についてのアンケートと同様に、『弱化』と聞いて思いつく言葉 を学生に列挙させると『強化』(37)『弱くなる』(26)『減る』(13)『弱い』 (13)『実験』(10)などの言葉が連想された。4つの基本的な行動随伴性について も、『正』『負』を用いず、記述的な表現を使い、『好子出現による強化』『嫌子消 失による強化』『嫌子出現による弱化』『好子消失による弱化』とした。これにより 、これまであまり統一的に区別されていなかった2種類の『弱化』も分かりやすくな ったと思う。

 もちろん『分かりやすくなったと思う』だけでは説得力に欠ける。そこで、新しい 用語が果たして期待された効果を上げているかどうかをテストすることにした。教育 心理学や学習心理学の授業で、私は、『行動』や『行動随伴性』、『強化』や『罰』 などの概念を教えるプログラム学習的な教材を使っている。この教材は小冊子になっ ていて、学生が概念の定義と例を読み、与えられた例題に答え、自己採点していくこ とで、学習が進むように設計されている。教材の最後には2種類のテストがあって、 そこで最終的な学習成果がチェックできるようになっている。ひとつは随伴性の名前 からその随伴性が行動の頻度を高めるか低めるか答える問題(たとえば「負の強化は 行動の頻度を高めるか、それとも低めるか?」)。もう一つは、短いエピソードを読 んで行動随伴性を分析し、ダイヤグラムに書き込む問題である。

 実験は2つの授業(異なる大学の異なる科目)で行った。授業Aには115人、授業Bに は193人の学生が参加していた。それぞれの授業で、半分の学生にはこれまでの用語 を使った教材、もう半分の学生には新しい用語を使った教材を配った。もちろん用語 が違う他に条件の差はない。その結果、2種類のテストの両方で、新しい用語を使っ た教材の方がこれまでの用語を使った教材より、得点が有意に高いことが示された。 授業A、授業Bとも同様の結果が得られた。行動分析学の初学者にとっては、『正』『 負』を避けて『好』『嫌』を使った専門用語の方が、より分かりやすいことが示され たと言える。さらに、プログラム学習終了後、すべての学生に両方の用語に関して講 義した後で、今度は用語の分かりやすさに関してアンケートをとったところ、プログ ラム学習で自分が学んだ用語にかかわらず『正』『負』より『好』『嫌』、『強化』 『罰』より『強化』『弱化』の評価が高かった(この研究については昨年の国際行動 分析学会で発表した*)。

 『強化』や『正の強化子』は行動分析学の根幹をなす基礎用語である。初学者にと って親切で誤解が少ないように、用語を見直してみてはどうだろうか?

*Shimamune, S., Muguruma, I., Watai, T., Fukami, Y., & Johkoh, R. 1998 Transforming not translating: Altering terminology to improve Japanese students' understanding of elementary principles of behavior. Poster presented at 24th annual conference of the Association for Behavior Analysis, Orlando, Florida.

報告:公開講座、関西デビュ−!

 去る12月19日、立命館大学にて、関西で初めての公開講座『ヒューマンサービス領 域における応用行動分析:プロフェッショナルの共通言語として』が開かれました。 当日はライスボールと重なったにも関わらず、一般会員35名、学生会員3名、学生非 会員59名、一般非会員24名の計121名もの参加者がありました。詳しい報告は次号 のJ-ABAニューズに掲載される予定です。ご期待下さい。


日本行動分析学会第17回大会準備委員会より訂正

 大会準備委員会より第一号通信に訂正の通知がありました。臨時会員の参加費 が3,000円となっておりましたが、正しくは5,000円だそうです。よろしくご周知のほ ど、お願いいたします。


編集後記
・J-ABAニューズ14号は来年度の会費請求書を同封するために、発送を通常より遅ら せ、3月の初旬に皆様のお手元に届くようにすることになりました。ところが私が在 研で2/5-3/12まで留守にするため、執筆者の皆様には無理を言って、原稿を早めに提 出していただきました。ご協力、ありがとうございました[編]。

J-ABAニューズ 第10号 発行 日本行動分析学会 〒154-0012 世田谷区駒沢1-23-1
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