日本行動分析学会ニュースレター

J-ABAニューズ 1997年 秋号  No. 9


学会へ行こう

年次大会へ足を運ぶべき2、3の理由


 今月の22日(土)から3日間、東京都府中市の安田生命アカデミアで、第15回行動 分析学会年次大会が開催されます。すでに会員の皆様のお手元にはプログラムが到着 していると思われますが、主催校は慶應義塾大学で、日本行動医学会との合同開催は 学会としても初めての試みです。他にも例年の大会とはひと味もふた味も違った企画 が用意されているようです。J-ABAニューズでは大会直前に入手したマル秘トクトク 情報をお届けします!

招待講演:フォックス博士について

 フォックス博士は、コロラド州デンバー生まれ、71年に南イリノイ大学で Ph.D.を取得され、現在は、ペンシルバニア州立大学で心理学の教授をされて います。なんといっても有名なのはアズリンと共著の Toilet training in less than a dayでしょう。この本は11カ国語に翻訳され世界中で読まれ ました。ただ残念ながら、日本語版「トイレット・トレーニング−自立指導の 実践プログラム−」(川島書店)は絶版です。この本をお持ちの方は、この機 会に著者の直筆サインをおねだりすれば、レア本の価値も上がるというもので しょう。

 フォックス博士は、Journal of Applied Behavior AnalysisBehavio r ModificationThe Behavior Analyst の編集委員 を歴任され、現在では、Behavioral Interventions の編集委員長を務 めていらっしゃいます。専門は、発達、精神遅滞・自閉症、自傷などで、招待 講演「行動分析学と医学:すこやかな関係を」では、まさに、行動医学会との 共同開催にふさわしいお話が聴けると思います。行動分析学と医学は、日本で も、今後ますます密接な関係を築いていくことが期待されます。日本では「行 動医学」を専門とする人はまだ少ないですから、この機会にフォックス博士と 仲良くなっていろいろ情報を手に入れましょう。特に学生諸君は留学の足がか りをつける絶好のチャンスですよ。

 会期中は会場内で起居を共にされますので、皆様も積極的に話しかけて下さ い(博士は日本好きで、大会終了後は京都方面へご学遊されるという情報も入っ てきています)。実は、博士は専任の通訳をつけることを希望されたそうです が、実行委員会では、「日本行動分析学会の会員はご自分の研究をちゃんと英 語で解説してくれますから大丈夫です!」と丁重にお断りしたそうです。たと えば、ポスター発表の図の部分だけでも英語版を用意して、それをお見せしな がら説明すれば、意見交換も進み、貴重なコメントが頂けることと思います。 「日本の研究を少しでも多くご紹介していただきたい」という実行委員会の希 望をお伝えしておきます。

ワークショップ:言語行動論・単一被験体法・

 国際行動分析学会の年次大会(通称、ABA)では、本大会前日にワークショッ プの日を設定しています。このワークショップは研究発表ではありません。最 新の情報や技術などを受講者に教えることが目的の講習会なのです。昨年の ABAでは28のワークショップが企画されましたが、その中には「機会利用型教 授法の使い方」とか「うつ病の認知療法:行動的アプローチ」とか、実践型の ハウ・ツー型セミナーが数多くみられます。数年前には「魅力的な履歴書・業 績書の書き方」なんていうクラスもありました。参加者は教材費などの実費を 支払って参加しますが、参加修了者にはアメリカ心理学会からの単位認定 (continuing education)も行われます。

 今年は、こうしたABA方式のワークショップが3つ開催されることになりま した。単位はでませんが、参加費は無料です。行動分析学のビギナーだけでな く、もう1一度、おさらいをしておきたい方、専門的に興味のある方、ぜひふ るってご参加下さい。

夜の自主勉強会:スクールカウンセリング・パフォーマンスマネジメント

 会場の安田生命アカデミアが、近代的で、とてもきれいな施設であることは、 前前号でもお知らせしました。実は、この会場には、各階に立派なラウンジが あり、会期中は、ここを自由に使っていいという許可をいただいているそうで す。そこで、大会「夜の部」として、自主企画研究会が開かれることになりま した。テーマは2つ。1つはPM研(パフォーマンス・マネジメント研究会) 主催の企業における行動分析学。もう1つは、若手会員主催のスクールカウン セリングについての研究会です。両方とも魅力的で、どちらに参加するか迷っ てしまうところです。パフォーマンス・マネジメントは、行動分析学の新しい キャリアパスとしての注目度大です。学生の諸君で、一般企業に就職しても行 動分析学を続けたいと思っている人はPM研を覗いてみたらいかがでしょうか? 一方、スクールカウンセリングは、学校教育の場面で「臨床心理士」という資 格制度が公認された現在、行動分析家がいかに関わっていけるのか、いくべき なのか、白熱した議論が生まれそうなトピックです。幸か不幸か、会場は、繁 華街からはかなり外れた場所にありますので、皆様、ぜひ、この「夜の部」に も参加して盛り上がりましょう。


リレ−エッセイ:行動分析学に出会うまでの長い道のり

藤田 継道(兵庫教育大学・九州大学教育学部発達心理臨床センタ−併任)


 高校生時代にロ−マ会議等の影響を受けて、宇宙船地球号の将来を憂えてい た。絶えることのない戦争、環境汚染、人口の爆発的増加と食料不足等々。は じめ、地球上に無尽蔵に存在する無機物質の空気と水から有機物を作り出すこ とを夢見ていた。日本農芸化学会長(だったか?)がおり、クラ−ク博士の流 れをくむ岐阜大学農学部農芸化学科に進んだ。当時の科学ではこれを具体化す ることはまだ無理であった。少し早すぎた。人類が葬送行進曲にのって破滅へ の道を歩んでいるように思えてならなかった。大学時代には神を探し続けてい た。神がいるならその御ことばを述べ伝える神の僕としての人生を送るつもり であった。神を見ることも、聞くことも、触れることもできなかった。ここで 生まれたときに受けた洗礼は意味を無くした。以後は似非(えせ)クリスチャ ンの人生であった。

 しかし、人類を憂える誇大妄想はまだ消失してはいなかった。神がいないな ら政治家になって世直しをしようという妄想が膨らんだ。故郷別府市に帰り、 市会議員からスタ−トしようと考え、多くの政治家に会った。政治家になるに は、三バンが必要であった。ジバン(組織、親類縁者の基礎票)、カンバン (高い知名度)、カバン(キャッシュのつまった鞄)いづれもなかった。「君、 とても無理だよ」であった。政治家もダメなら、これから将来を背負っていく 子ども達に夢を託すしかない。それは、教育だ。教師になろう。小、中、高の いずれの教師か。最も長い時間子どもと接し、子どもに最も大きな影響を及ぼ す可能性が高いのは小学校の教師しかないのではないか。

 大学卒業後、東京で働いていたが、こうして、半年で会社を辞め、母校岐阜 大学教育学部小学校教員養成課程3年に学士入学することにした。岐阜に帰り、 半年間、知人の紹介でアラレを製造するK製菓株式会社でアルバイトをしなが ら編入学試験を待つこととなった。当時、アラレの原料である餅米の値段が数 倍にはね上がり、「つくれば赤字」の困難な時代に突入していた。バイトの面 接試験。専務「君、農化(ノウバケ)出身だってね。研究室をつくったところ。 ちょうどいい、研究室を任せるよ。餅米に変わる安い原料を何とかしてくれな いかね。」おかげで、勝手気ままなバイトが始まった。

 餅米の主成分は粘りのある澱粉「アミロペクチン」だから、餅米より安価な 作物を探せばよい。ありました。餅トウモロコシ。P化工KKを通して農家に 委託栽培してもらい、P化工がアミロペクチンを抽出。これを、餅米に5%刻 みでX%まで混入していき、その時の味、香り、歯ごたえ、舌触り、見栄え、 浮き(膨張度)を盲件法によって調べていった。混入率がX%を越えると乾燥・ 焙焼の過程で形状が維持できなくなることや、餅米でないことが判明すること が分かった。混入の方法がミソで、その方法を含め、論文にまとめ、特許申請 することになった。しかし、タッチの差で日本を代表する大手の食品会社も特 許申請しており、特許は取れなかった。それでも、P化工がこの論文を1千万 円で購入してくれたと聞いた。会社はバイトの私に10万円の報奨金をくれた。 私が辞めた会社の初任給は23,800円であったから、この金額は初任給の4倍以 上の価値があったことになる。

 私に思いきりの良さや金儲けの才があったら、人生はまったく違ったものに なっていたに違いない。K製菓の再建に乗り込んできていた専務2人がP化工 で抽出したアミロペクチンを仕入れ、これをアラレやに卸す会社「Q産業KK] を興し、私を重役で迎えると言ってくれた。これを断ってしまった。このとき、 アミロペクチンは1袋(イッタイと読む)22Kgで確か2800円であった。論文 を渡す段階で1袋につき1%のマ−ジンを受け取る契約を結んでいればと悔や まれてならない。その後、招待されてQ産業に出向いたことがある。発足した ばかりの会社の月間取引が数万袋であった。2800円×1%×5万袋とすれば、 毎月140万円の金が転がり込み続けていることになって

いた。今の価値で言えば、毎月1千万円以上の金と言うことになる。今この金 があれば、発展途上国の障害児教育への寄付にこんなに苦労せずにすむのにと 残念に思われてならない。

 しかし、当時お金は汚いものと言う意識があり、何の躊躇も無しにすべてを 蹴った。そして、教育学部へ編入。日本の精神医学に始めて精神分析学を導入 した東大医学部出身で東北大学医学部精神科教授丸井清泰先生の娘、日本のア ンナ・フロイドと言われた丸井澄子先生に出会い、岐阜大学医学部付属病院精 神科に出入りしながら精神分析学を学び始めることとなった。そして、フロイ ドとは逆に催眠のとりこになっていった。専攻科を経て、国際医学催眠学会会 長・九州大学教授成瀬悟策先生の大学院生となり、修士・博士の5年間、大学 と精神病院で臨床心理学、精神医学を学び続けることとなった。博士3年の頃 には医学研究所の客員研究員として、医者の学会発表用の論文を書いて暮らす ようになっていた。てっきりこの道で生きていくものと思っていた。しかし、 人生どうなるか一寸先は分からない。ある大学保健管理センタ−のカウンセラ −にほぼ決まりかけていたが、恩師成瀬悟策先生の一声で国立特殊教育総合研 究所精神薄弱教育研究部研究員の道へ。ここで先日他界された東正先生のもと で行動分析学に基づく障害児教育に取り組むことになったのである。以後、実 に多くの人々に出会い、助けられ、支えられ、教えを受けてきた。いつか機会 があれば、世直しの妄想も含めこれから先の話もしてみたいものである。


2001年宇宙の旅:強化随伴性の壮大な実験

シリーズ:jABAシアター −行動分析的視点で映画をみると−

伊藤正人(大阪市立大学)


「お祝いの邪魔をして申し訳ないが、問題が起こった」と宇宙船ディスカバリー 号の頭脳と神経系をなす高度に進歩したコンピュータのハルがいった。木星へ の惑星飛行中に起こる、宇宙船船長ボーマンとハルとの壮絶な戦いの始まりで ある。

 映画「2001年宇宙の旅」は、スタンリー・キューブリック監督と作家アーサー・ クラークの共同作業として、同名の小説と同時進行の形で1968年に制作された SF映画の傑作中の傑作である。この小説と映画の主題は、近未来(といっても 2001年はたった4年後のことである)における宇宙空間に進出した人類と機械 (道具)の問題であるが、物語の背景となっていた科学的フィクションは、そ の後に実現した史実(人類の月面着陸、ボイジャーの惑星探査、ガリレオによ る木星探査など)に照らしても、近未来を先取りしていたことが明らかであり、 今なお、新鮮さを失ってはいない。小説と映画では若干の相違があるが、映画 の方がより象徴化されているので、その内容の解釈については様々な議論があ る。

 物語は、およそ400万年前、まだ人類が猿人と呼ばれていた気の遠くなるよ うな時代から始まる。その時代、後にアフリカと呼ばれるようになる大地で、 人類の祖先達は、か弱い存在で、飢えと死が隣り合わせの毎日を送っていたの である。ある時、ある猿人のグループが住処である洞窟から餌探しに出かける 途中、今まで見たことのない不思議な物体を発見する。それは、高さが彼らの 背丈の3倍、幅は伸ばした両手の指先におさまるほどの直立した石板(モノリ ス)であった。

 モノリスは、猿人達にとって、食べられないものであり、また自分たちを食 べようとしない無害なものと思われたが、ある時、猿人達に不思議な作用を及 ぼし始めた。モノリスの発する音と光に誘われて集まってきた猿人達は、モノ リスの前で様々な行為う。ある者は、小石を拾い、モノリスめがけて投げつけ た。最初は、うまく当てられなかったが、しだいにうまく当てられるようにな り、えも言われぬ快感にとりつかれるようになる。やがて、群の全員がこの行 為にとりつかれ、ある者はうまくいき、ある者は失敗したが、皆が結果に応じ て快感や苦痛を味わった。このことは、やがて、別の場面で、石を使って動物 を殺すという行為に発展する。その結果、もはや猿人達は、飢えに苦しむこと もない生活を送ることになるのである。

 このエピソードは、オペラント条件づけの強化随伴性の働きにより、猿人達 がこれまで何の意味も持たなかった石を道具として使用するようになったこと、 すなわち、新たな反応形成の過程を物語っている。それは、その後、人類が様々 な道具を発明する契機となった。それでは、人類進化の契機を生み出した、こ の不思議な直立石モノリスとは一体何なのだろうか?この謎は、映画(小説) の後段で明らかになる。道具を使い始めた猿人が道具の一つである骨を大空に 放りあげると、映画の画面は、一転して2001年の宇宙ステーションの映像に劇 的に変わる。この劇的な映像の変化は、人類進化の証である道具の進化を象徴 している。

 宇宙ステーション上の科学者フロイド博士は、極秘の命令を受けて、これか ら月面基地に赴くところであった。極秘命令とは、月面で発見された、高度な 知的生命体の存在を示唆するおよそ400万年前の人工的物体、つまり直立石モ ノリスを調査することであった。明け方、現場に到着して、投光器に照らされ て地中からそそり立つ漆黒の物体を前に、フロイド博士は、400万年前に地中 に埋めた知的生命体の意図を計りかねていた。やがて、月面の朝焼けとともに、 太陽光がモノリスの漆黒の表面を照らし始めた。その時、突然、宇宙服のヘル メットのスピーカーから、電子的絶叫がほとばしった。400万年を闇のなかで 過ごしてきたモノリスが月面の夜明けを迎えて発した歓びの声は、月面から太 陽系の彼方へと一直線に向かっていったのである。

 再び場面は変って、木星への惑星飛行を続ける宇宙船ディスカバリー号の船 内では、船長のボーマンと副船長のプールの二人が交代で、計器類の監視作業 を行っていた(他に人工冬眠状態の3人の乗員)。しかし、実際には、ディス カバリー号の運行は、高度に進歩した人間型コンピュータのハルが行っていた のである。地球から送られてきたプールの誕生祝いのための映像が終了した直 後、ハルは「お祝いの邪魔をして申し訳ないが、問題が起こった」とアンテナ の方向制御ユニットの故障を告げた。ボーマンとハルの壮絶な戦いの始まりで あった。

 プールはディスカバリー号のスペースポッドに乗り移り、船外活動を行い、 制御基板を船内へ持ち帰った(このシーンは、後年スペースシャトルでの遊泳 装置を使った船外活動として実現した)が、その基板には、異常は発見されず、 ハルの誤動作(より深刻な事態)を示唆した。二人はハルに聞こえないように、 ハルの機能停止を議論し、停止やむなしの結論を下した。地球上の管制室から も、交換したユニットを元に戻して故障するのを確認せよと指令が届く。そこ で、再びプールがスペースポッドによる船外活動でユニット交換を行おうとし たその折り、スペースポッドが暴走を始めたのである。ボーマンは、すべてを 管理しているハルにスペースポッドの制御を命令するが、ハルからは何の応答 もなく、スペースポッドは、後ろに動かなくなった宇宙服を残したまま、瞬く 間に星くずの彼方へ消えてしまう。容易ならざる状況にたちいたって、ボーマ ンはハルの機能を停止させ、運行管理権を取り戻す決意をする。すでに、人工 冬眠状態の乗員は、ハルにより殺害されていた。ボーマンは、プールの遺体を スペースポッドで回収し、入船を拒否したハルとの緊迫したやり取りの後、手 動で強制的に扉を開け、ようやく船内に戻る。ボーマンは、ハルの哀願を無視 して、直ちに、ハルの機能を止めるべく、いくつかのメモリー基板を取り外し、 ようやくハルを永久に沈黙させた。まさにその時、木星到着時に、乗員に今回 の惑星飛行の真の目的を伝えるフロイド博士のメッセージビデオを見て驚愕す る。つまり、今回の飛行の目的は、月面のモノリスが発した声の到達点である、 木星に知的生命体が存在するか否かを偵察することだったのである。

 木星に接近したボーマンは、そこに月面上のモノリスと類似した巨大な直立 石を発見する。調査のためスペースポッドに乗り移つたボーマンが、巨大モノ リスに着陸しようとして見たものは、何だったのか?映画のクライマックスで は、想像を越えた出来事が待ち受けていた。スペースポッドごと巨大モノリス に吸い込まれたボーマンは、仮想現実の世界に到着する。そこで、ボーマンは、 老人の姿でベッドに横たわり、ベッドの前に直立するモノリスを指さすと胎児 に変貌してしまうのであった。この映画の最後の場面は、極めて超現実的かつ 象徴的である。

 モノリスとは、およそ400万年前に地球や月を訪れた知的生命体が試みた壮 大な実験のための装置とその効果の検出器と考えることができる。その実験と は、強化随伴性による猿人の新しい行動(道具の使用)の形成とその後の進化 の証拠を得ることであった。知的生命体による壮大な実験という見方は、映画 では象徴化されているので、わかりにくいが、小説では明示的である。モノリ スを作った知的生命体は、400万年という気の遠くなるような時間をかけて人 類の進化を観察し、進化の証として、やがて人類が月面のモノリスを発見する のを待ち続けていたのである。

 スキナーは、1979年、日本心理学会大会で「結果による選択(selection by conse quences)」と題する講演を行った。この中で、行為(行動)の原理 (オペラント条件づけ)の重要な側面である、行為の結果依存性(あるいは、 結果による選択)を、ダーウィンの自然選択や文化の形成・継承の問題と関連 づけて論じている。この講演で、彼は、人類が行為の原理により多様な行動を 獲得し、広範囲の環境の変化に適応することが出来たことや他個体との関わり のなかで、適応を飛躍的に促進させたことを指摘している。これらのことは、 行為の原理にもとづく模倣や言語を通して、他個体からの援助を拡大させたか らであり、つまり、人類は、結果による選択の過程を通して、多様な文化を獲 得し、環境への適応をより強固なものとしたというのである。

 人類は、個体による道具の使用を、遺伝子というルートではなく、文化とい うルートを通して、次世代に伝えることにより現在の地位を築くことができた と考えられる。モノリスに吸い込まれたボーマンが光の通廊のなかで見たもの は、宇宙の生成から地球の誕生、人類の進化という生命誕生の由来であり、到 達した仮想現実のなかでボーマンが老人になり、そして胎児になるという、映 画「2001年宇宙の旅」の最後の場面は、このことを象徴しているといえよう。


研究所紹介:発達教育研究所アトム

谷 晋二(発達教育研究所アトム)


編>今回は大学の研究室の紹介ではありません。発達教育研究所アトムという、主に 知的障害者・児を対象に行動分析的なトレーニングを提供しているクリニックのご紹 介です。個人的にたいへん注目している、主催の谷先生にインタビューさせていただ くことにしました。先生、こんにちわ。今日はよろしくお願いいたします。

谷>こちらこそ、よろしくお願いします。

編>日本では大学院、特に博士課程をでると研究職しか道がないようですが、 米国とかだと、行政やサービス、臨床や教育にどんどん入っていく。実践家と して質の高い仕事をする。世の中もそうした期待をしていると思うのです。で も、日本ではまだそうしたキャリアパスができていないように思います。そう いった意味で、パイオニアとしてのご苦労も多いのではないですか?

谷>パソコンのハードやソフトの登録葉書。あの記入にはいつも戸惑います。 短期大学非常勤講師などという記入欄は見た事がありませんし、行動療法士に いたってはあるはずもありません。結局自営という欄に○をつけることでおち つきます。

編>自営業ですか(笑)。大学での臨床活動とは、やはり、ぜんぜん違うので しょうね。

谷>大学の研究室と開業とはいろいろな点で異なりますが、結局のところお金 のやりとりのところへ落ち着くと思います。大学の研究室で臨床活動をしてい たころは、訓練費あるいは相談料というのはほとんど無料に近いものだと思い ますから、訓練がうまく行かないから金返せという事はないわけです。開業し ていると表向きそういう事はありませんが、だんだんと訓練に来なくなって、 きれいにフェイドアウトしていきます。ケースが減ると収入が減る、食べてい けないという恐ろしい事になります。

編>厳しい随伴性ですね。その分、「腕」も磨かれるのでしょうか?

谷>開業して10年ほどになりますが、いまでも今日の訓練は6000円の値 打ちがあったかと考えてしまう事があります。逆にとてもうまく行って学会で 発表するようなケースでは「10万ほどもらっとけば…」と思う事も度々です。

編>もらっちゃえばいいのに(笑)。

谷>私は大阪で開業していますが、事務所は自宅で連絡は携帯電話と電子メー ル。訓練は無料で借りている病院と訪問指導ですから、家賃や光熱費がまった くかかりません。そうでないととてもこの値段では無理があります。

編>障害を持った人たちに対する国からの経済的な援助が充実している米国と は、そこに大きな差がありますよね。大学とは、他にどんなところが違います か?

谷>大学の相談機関等にケースをご紹介する事もありますが、行動分析での指 導をしてくれる大学機関が少なくて困ります。発達障害児・者の指導方法とし て最も効果的な行動分析の療育機関が最も数少ないのは結局行動分析の発展を 根っこのところで邪魔してしまう事になるでしょう。また、大学の相談機関で の療育は基本的に学生指導の一環として行われる事がほとんどですから、けっ こうお休みが多かったり、長い予約待ちがあったり、週に2回訓練をやって欲 しいとか、夏休みに集中訓練して欲しいなどという、お客様のご要望にお答え できない事が多いようです。

編>でも、お客様の要望に答えていると、たいへんでしょう。

谷>固定客が増えてきて、頼りにされればされるほど「4月から大学に就職が 決まって九州に行きます」などと言ったら夜道は歩けなくなります。

編>どれくらいのケースを持ってらっしゃるんですか?

谷>現在月にのべ140ケース近くを2人のトレーナーで訓練を行っています。 発達障害を持つ2才から成人までの人たちが通ってきたり、私たちが訪問した りしています。訓練場所は、伊丹市のとある病院の4階を無料で週3日、提供 してもらっています。それ以外は、外回りといって愛車のレガシーで大阪中を 巡回しています。訓練目標は保護者の方と相談して決めます。

編>トレーニングも家庭で行うのですね?

谷>今年の1月から訓練を訪問指導という形態に変えつつあります。敵陣に乗 り込んでの訓練です。こどもが今在る環境の中でその環境を操作する事は思い のほか効果が在ると思います。大声や奇声を消去するといっても、都会のマン ションの中では限度があります。押したり引いたりの掛け引きをしながら、そ の家庭環境の中で一番使いやすくて効果的な方法を見つけていくのが腕のみせ どころです。

編>やっぱり、臨床家としてのワザみたいのが重要ですか?

谷>開業しているとよく職人芸と言われます。しかし自分ではこどもの行動の 評価と指導とを常にABデザインのように繰り返しているだけなのです。最良の 素材(行動分析)をいただいたのですから、最高の料理に仕上げたいと思いま す。やっぱり職人ですね。

編>以前にトレーニングを拝見させていただいたときに感じたのですが、科学 者としての判断と臨床家としての技量とのバランスが重要なのだと思いました。 今日はどうもありがとうございました。これからも、アトムでの活動、頑張っ て下さい。

谷>ありがとうございました。


夏休み短期留学報告:ウェスタンミシガン体験記(1997)

佐伯大輔(大阪市立大学文学研究科心理学専攻)

 7/28〜8/20にアメリカ合衆国ミシガン州にあるウェスタンミシガン大学(以 下WMU)でRichard W. Malott先生による行動分析学の授業(Applied Behavior Analysis , Psychology 671)を受講しました。以下では授業の様子 を報告致します。

 今回日本からは私を含め2人の日本人が参加しました。受講者は日本人2人 とWMUの学生13人の計15人でした。受講者の多くはMalott先生の下で研究を している修士課程の大学院生で、Applied Behavior Analysisかまたは Organizational Behavior M anagementを専門としていました。

 授業は月〜金曜日の午後3時〜6時の3時間行われました。受講者は Elementar y Principles of Behavior 3rd. Ed.(以下EPB)を読ん でいることが前提となっており、授業はこの本とは別の教材を中心に進められ ました。この教材は23章からなる冊子群で、1回の授業で1〜2章の率で進行 しました。この冊子群は章ごとにテーマが分かれており、最初の章では行動分 析の基本的概念が紹介され、後の章では、Organi zational Behavior Management、Cultural Change Model、Deliquency、Behavioral Anthropology など、EPBでは取り扱われていないテーマについて行動分析的アプローチが 試みられておりました。冊子中には、各テーマの内容に関する問題と記憶すべ き専門用語及びその意味が記されており、受講者にはこれらの課題が宿題とし て与えられました。

 授業では宿題の答え合わせとクイズが行われました。宿題の答え合わせでは 受講者が順番に解答を言うのですが、その解答に対して他の受講者は色つきの カード(例えば賛成は緑カード、反対は赤カード)を挙げて自らの意思表示を 行うという方法がとられていたのは特徴的でした。この方法を採用することに よって、答え合わせはただ機械的に進むのではなく、疑問や意見のある受講者 はその場で発言できました。

 クイズは授業の最後の30分間に行われました。クイズでは各章の内容が理解 できたかどうかを選択式で問われたり、専門用語の意味を記述式で問う問題が 出題されました。専門用語の出題は5〜10問ほどでしたが、英語の語彙・文章 を憶えるのに慣れていない私にとっては難易度の高い課題でした。

 その他、授業では週に1回、Self-management Projectという、受講者が自 らの行動を改善するために行う行動的介入とその効果を発表する場が設けられ ました。この行動的介入は、Malott先生が提案したパフォーマンスマネージメ ントに関する3つの随伴性モデルに基づいて行われました。「3つの随伴性」 とは、「効果を持たない自然随伴性(ineffective natural contingencies)」、 「パフォーマンスマネージメント随伴性(performance management contingencies)」、「理論的随伴性(theoretical contingencies)」のこと です。 例えば、健康のために毎日規則的にランニングする行動がなかなか続 かない場合、その随伴性(1回のランニングによってほんの少しだけ健康にな ること)は「効果を持たない自然随伴性」になります。そこで、「1日に30分 以上ランニングしなければ1ドルを支払う」という行動契約をパフォーマンス マネージャーとの間に交わします。これは「パフォーマンスマネージメント随 伴性」になります。さらに、毎日30分以上ランニングすると1ドル支払うこと に対する不安が即座に消失することから、これを「理論的随伴性」としていま す。私は「毎日の授業で自発的に発言しなければもう1人の日本人(パフォー マンスマネージャー)に1ドルを支払う」という行動契約を結びました。最初 の間は英語の聞きとりの問題もあって毎日1ドルを支払っていましたが、コー スを終える頃にはかなりパフォーマンスを改善させることができました。

 授業全体としては、受講者が積極的に議論に参加し意見のやりとりが活発に 行われていたということが印象に残っています。また教材については、EPB にはまだ載っていない試験的(と思われる)内容を含んでいて興味深く思いま した。

 Malott先生及びWMUの皆さんには授業中のみならず授業外においてもいろ いろと御世話になりました。Malott先生はよく私達のことを気遣って声をかけ て下さいましたし、休日にはたいてい学生の誰かが自分の家に案内してくれた り映画を観につれていってくれたりしました。またいつか彼らに会える日を楽 しみにしています。


お知らせ:ABA in ディズニーワールド!

第24回国際行動分析学会年次大会のお知らせ


 国際行動分析学会(ABA)の年次大会は、来年、なんと、あのフロリダのディ ズニーワールドで開催されます!! 期間は5月22日から26日まで。会場は、 Walt Disney W orld Dolphin。いかにもディズニーな外観&内装のメルヘンチッ クなホテルです。もちろん、宿泊も学会料金ですからリーズナブル($110/部 屋)。学問だけではなく観光も楽しめる、充実した学会になること間違いなし です。来年は佐藤方哉先生が、米国人以外では初めて、ABAの会長に就任す る年でもあり、これはもう参加するしかありません。

 大会発表の申込み〆切はすでに過ぎておりますが(10/24)、参加者増大が 見込まれるため、ホテルの部屋数の確保が難しくなるかもしれないという情報 が、うちうちに流れてきています。学会料金で泊まれる部屋数には限りがある のです。参加希望の方は、お早めに(今すぐ!)、ホテルの予約だけでも済ま せることをオススメします(次頁にホテル予約のフォームを付録)。


お知らせ:日本行動分析学会公開講座:知的障害を持つ個人への就労援助

行動分析はどのように貢献できるのか


 就労は、障害を持つ個人のノーマリゼーションの具現化を推進する上で中心 的な課題です。就労をよりよく実現し継続していくためには、送り出す学校、 迎える企業、さらに本人を中心にその両者をコーディネートする組織の連携が 不可欠です。

 行動分析の枠組と方法は、この就労に必要な行動を指導する「教授」、障害 を持ったままでも就労が継続されるための「援助」、そして指導の成果や最適 な援助設定を就労の場や地域に伝える「援護」、という3つの仕事を統合的に 行うための有効なツールになると思われます。

 今回の公開講座は、行動分析の持つ特性を、関係する諸機関や個人の連携作 業に具体的にどのように役立てられるかを念頭におきつつ、訓練センター、学 校、企業、それぞれの立場から講師を迎え、知的障害を持つ個人の就労の現状 と今後の展望について考えようというものです。

 障害を持つ個人の就労に関心のある方、障害福祉と行動分析はどう関連する かに興味のある方、お誘い合わせの上、ご参加下さい。


お知らせ:来年度の年次大会に向けて

ワークショップのテーマ募集


 日本行動分析学会第16回年次大会のワークショップのテーマを募集します!

 次年度は、1998年8月19日から20日まで、茨城県つくば市 筑波大学で開催する予 定で、目下、準備が進んでいます。大会準備委員会では、ワークショップの開催を予 定していますが、会員の皆さんに斬新で楽しい企画を募集したいと思います。このよ うなテーマで、このような内容でと、アイデアがうかびましたら以下の住所まで、よ ろしくお願いします。


お知らせ:J-ABAニューズ次期編集局長候補の募集


 おかげさまでJ-ABAニューズも発行から2年がたち、次回で10号を数えるようにな りました。これからも、初心を忘れず、常に新しい気持ちで、他の学会の会報にはな い持ち味をだしていきたいと思っています。しかし、そのためには若い力、新しい血 が必要です。生け贄の血という意味ではもちろんありません(^^)。そこで今回、次 期編集局長の候補を大々的に公募することにしました。候補が決まった時点から、1 年間(4号分)、現編集と一緒に作業をして仕事の流れなどに慣れていただきます。 そしてその後、全権委託という格好になります。将来的にはABAの会長のように、 1年目が見習い、2年目が本職、3年目が顧問的な役どころで仕事を回せるようにで きたらと考えています。我こそと思う人は、編集局まで、ぜひご連絡下さい。

訂正とお詫び


前号掲載の「『行動分析学ホームページ』開設のご案内と今後の展開」の中で、 著者のミスで、寺田さんの御所属を『白梅女子短期大学』と書いてしまいましたが、 正しくは『白梅学園短期大学』でした。この場をお借りして訂正させて戴くと ともに、失礼のほど、お詫び申し上げます(望月要)。


編集後記


9月からオハイオ州立大学へ留学している遠藤清香さんからメールが届きま した。オハイオは行動分析学を主軸に教員養成を行っている大学として有名で すが、そこで遠藤さんが感動したのは「子どもを好きになることが基本。Rule of love!」というレクチャーを受けたことだそうです。もちろん強化の概念な どと結びついた行動分析学の授業らしいのですが、新鮮ですよね。でれきば留 学レポートなどをしてくれるよう頼んでみようと思います。


J-ABAニューズ編集局 
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